あなたは、打ち取った打球なのにヒットとなり、ランナーが還り失点した場面を目の当たりにしたかも知れません。
投手の良さを図る代表的な指標として防御率がありますが、守備によって影響が出る場合もあります。
同じ打球を打たれても、アウトになるかヒットになるかで、防御率が良くなったり悪くなったりしますね。
一方で、最近は、防御率(失点率)から守備の影響を排除して評価する傾向があり、セイバーメトリクスのtRAという指標を使います。
守備の影響を排除することで、公平に投手の評価が可能です。
今回は、セイバーメトリクスのtRAについて、意味や計算方法、2018年のランキングをみていきましょう。
◇目次◇(該当箇所クリックで飛べます)
セイバーメトリクスとは?tRAの意味は?
クオリティスタート(QS)は先発投手が6回以上を投げ自責点3以内に抑えると記録される指標です⚾#田中将大 投手が50試合連続QSの“世界記録”を持っています ‼#npb #mlbjp
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(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ) pic.twitter.com/9278QHgkEN— スポーツナビ (@sportsnavi) 2018年6月5日
tRAは、セイバーメトリクスの指標であり、投手がどれだけ失点を抑えたかを守備の影響を排除して評価します。
セイバーメトリクスとは?
セイバーメトリクスは、アメリカで作られた統計学に基づいた野球指標です。
この指標により、「どのくらい得点に貢献したか」、「どれだけ失点を防げたか」といった幅広い視点で、チームや選手を評価する事ができるようになりました。
あなたは、QS(Quality Start、クオリティスタート)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
先発投手が6回以上を3失点以内に抑えた回数の事ですが、これも、セイバーメトリクスの評価手法の一つです。
メジャーリーグでは、勝ち数や防御率よりQSを重視するチームもあるくらいです。
近年は、こういった、これまでにない手法を使うことにより、チームでの作戦や選手の評価に変化が見られています。
では、セイバーメトリクスによる評価はどのように行われるか、投手の評価の手法であるtRAについて見ていきましょう。
セイバーメトリクスのtRAの意味は?
セイバーメトリクスの投手の指標であるtRAは「True Runs Allowed」の略です。
これは、守備が平均レベルと仮定して公平に評価した失点率の事を言います。
防御率では、同じような打球を打たれた場合でも、アウトになるかヒットになるかで影響が出ました。
一方で、tRAでは、同じ打球を打たれたら守備の結果によらず同じ評価をするため、守備による影響を少なくでき、防御率よりも公平に評価することができます。
また、tRAは、守備が平均レベルと仮定して評価を行います。
セイバーメトリクスのtRAの計算方法や評価基準は?
E則本
失点率 4.09
tRA 2.73
FIP 2.78
xFIP 2.84
DER .645
ゴロアウト率 64.2%
外野フライアウト率 75.0% pic.twitter.com/QxTFkUyZCS— DELTAGRAPHS (@Deltagraphs) 2016年9月9日
これまで、tRAの概要を書きましたが、計算方法について見ていきましょう。
セイバーメトリクスのtRAの計算方法は?評価基準は?
tRAの計算式は下記の通りです。
tRA=その投手の仮想的な失点率+リーグ全体の失点率-リーグ全体の仮想的な失点率
=仮想的な失点÷仮想的なアウト数×27+リーグ全体の失点数÷リーグ全体のアウト数×27-リーグ全体の仮想的な失点÷リーグ全体の仮想的なアウト数×27
tRAは、仮想的な失点率が、リーグ全体(全投手)の仮想的な失点率と比べて高いか低いかを測るものです。
仮想的な失点率とは、9イニング(27アウト)分の仮想的なアウトに対する仮想的な失点数の事です。
仮想的な失点数を減らし、仮想的なアウトを増やせば仮想的な失点率が低くなります。
では、tRAの評価基準についてみていきましょう。
リーグ全体の仮想的な失点率は、リーグ平均レベルの仮想的な失点率とも言えます。
仮想的な失点率が平均レベルの投手のtRAと、リーグ全体の失点率(9イニング当たりの失点)が等しくなるようにしています。
また、tRAは仮想的な失点率に基づくので、低い方が評価が良いです。
tRAがリーグ全体の失点率よりも低いと、その投手の仮想的な失点率がリーグ全体の仮想的な失点率と比べて低いということになり、リーグの平均レベルよりも良いと言えます。
逆に、tRAがリーグ全体の失点率よりも高いと、リーグ全体の仮想的な失点率と比べて高いということになり、リーグの平均レベルよりも悪いと言えます。
これが、tRAの評価基準です。
tRAの計算に用いられる仮想的な失点数とは?仮想的なアウト数とは?
今度は、先ほど出てきた、仮想的な失点数と仮想的なアウト数について詳しく見ていきましょう。
仮想的な失点数とは、守備の影響を考慮しない場合の失点の事です。
仮想的な失点は下記の式で表されます。
仮想的な失点=Σ(各要素の失点期待値×各要素の数)
=四球の失点期待値×四球数+死球の失点期待値×死球数-奪三振の失点期待値×奪三振数+被本塁打の失点期待値×被本塁打数+ゴロの失点期待値×ゴロ系の打球の数+内野フライの失点期待値×内野フライ系の打球の数+外野フライの失点期待値×外野フライ系の打球の数+ライナーの失点期待値×ライナー性の打球の数
式を見ると、投球結果や打球の種類といった要素ごとに分類して、それぞれの失点期待値を掛けているのが、分かります。
ただ、打球に関しては、打撃結果ではなく、フライとなる打球、ゴロとなる打球、ライナー性の打球というように、打球の種類によって分類するので注意が必要です。
それらを合計して全要素足し合わせたものが仮想的な失点です。
失点期待値とは、各要素ごとの失点になる確率の事を言います。
また、仮想的なアウト数とは、守備の影響を考慮しない場合のアウト数の事をいい、下記の式で表されます。
仮想的なアウト数=Σ(各要素のアウト期待値×各要素の数)
=奪三振のアウト期待値×奪三振数+ゴロのアウト期待値×ゴロ系の打球の数+内野フライのアウト期待値×内野フライ系の打球の数+外野フライのアウト期待値×外野フライ系の打球の数+ライナーのアウト期待値×ライナー性の打球の数
仮想的なアウトとは、仮想的な失点と同じように、各投球結果や打球の種類に対するアウトとなる確率(期待値)を投球結果ごとに合計したものです。
アウト期待値とは、各要素ごとのアウトになる確率の事を言います。
tRAが良くなるのはどういうときか?
さらに、tRAが良くなる(低くなる)のはどういう時か見ていきましょう。
先ほども書きましたが、仮想的な失点率が低い方が、tRAが低くなりますね。
そして、仮想的なアウト数を増やし、仮想的な失点を減らせば、仮想的な失点率を減らすことができます。
そのためには、失点期待値が低い要素の方が仮想的な失点を減らせ、アウト期待値が高い要素の方が仮想的なアウトを増やせます。
要素(投球結果や打球の種類)ごとの失点期待値、アウト期待値の値は、シーズンなどによっても違いますが、概ね、このくらいの値です。
要素名 | 失点期待値 | アウト期待値 |
本塁打 | 1.40 | 0.00 |
四球 | 0.30 | 0.00 |
死球 | 0.33 | 0.00 |
三振 | -0.11 | 1.00 |
ゴロ | 0.04 | 0.74 |
内野フライ | -0.12 | 0.99 |
外野フライ | 0.13 | 0.67 |
ライナー | 0.29 | 0.30 |
この表を見ると、三振や内野フライはアウト期待値が高く、失点期待値が低い要素だと言えますね。
なので、三振を多くとったり、内野フライに打ち取る打球を多くすれば、仮想的な失点率を低くでき、tRAも低くなります。
逆に、ホームランを打たれたりや四球、死球を出すことが多いとtRAが高くなります。
また、ライナー性の打球は、アウト期待値が低いので、そこまでtRAを低くできません。
プロ野球2018年のtRAのランキングは?
横浜DeNAベイスターズ
防御率 :1位/12球団
失点率 :2位/12球団
奪三振率:3位/12球団
与四球率:1位/12球団
FIP :1位/12球団
xFIP:2位/12球団
tRA :1位/12球団
WAR:1位/12球団 pic.twitter.com/0rD2Va3uyT— 蘇龍 (@soryu_55) 2016年5月17日
では、今年(2018年)のtRAのランキングはどうなっているのでしょうか?
プロ野球2018年のtRAのランキング
各リーグの規定投球回到達者の中でのtRAランキングはこのようになりました。
規定投球回は、試合数と同じイニング数であり、両リーグとも143です。
さらに、防御率と比べて見てみましょう。
パ・リーグ
選手名(敬称略) | チーム名 | tRA | 防御率 |
則本昴大 | 楽天 | 3.16 | 3.69 |
菊池雄星 | 西武 | 3.20 | 3.08 |
上沢直之 | 日本ハム | 3.32 | 3.16 |
岸孝之 | 楽天 | 3.74 | 2.72 |
西勇輝 | オリックス | 3.84 | 3.60 |
多和田真三郎 | 西武 | 3.88 | 3.81 |
N・マルティネス | 日本ハム | 3.92 | 3.51 |
山岡泰輔 | オリックス | 4.23 | 3.95 |
涌井秀章 | ロッテ | 4.23 | 3.70 |
セ・リーグ
選手名(敬称略) | チーム名 | tRA | 防御率 |
菅野智之 | 巨人 | 2.97 | 2.14 |
東克樹 | 横浜 | 3.29 | 2.45 |
K・ジョンソン | 広島 | 3.70 | 3.11 |
R・メッセンジャー | 阪神 | 3.76 | 3.63 |
大瀬良大地 | 広島 | 4.06 | 2.62 |
O・ガルシア | 中日 | 4.16 | 2.99 |
D・ブキャナン | ヤクルト | 4.39 | 4.03 |
山口俊 | 巨人 | 4.60 | 3.68 |
概ね、tRAが低い選手は防御率が低い傾向にありました。
しかし、東北楽天ゴールデンイーグルスの則本昂大投手は、tRAはパ・リーグ1位でしたが防御率はそこまで低くありません。
則本昂大投手はパ・リーグの最多奪三振のタイトルを獲得しています。
恐らく、奪三振数が187と多く、tRAが低くなったと思われます。
また、逆に、tRAは高くても防御率の低い次のようなピッチャーもいました。
- 東北楽天ゴールデンイーグルス、岸孝之投手
- 広島東洋カープ、大瀬良大地投手
- 中日ドラゴンズ、O・ガルシア投手
これは、岸投手や大瀬良投手は被本塁打数が多く、ガルシア投手は与四球が多いのでtRAが高くなったと思われます。
因みに、岸投手は21本、大瀬良投手は22本ホームランを打たれ、ガルシア投手は73個フォアボールを与えました。
tRAが良くて防御率が悪いケースやその逆のケースは、それ以外にも色々な要因が考えられます。
また、リーグ全体の失点率は、パ・リーグが4.21、セ・リーグが4.49なので、tRAがそれよりも低い投手が多いと言えます。
先発投手は、投球内容が良いと、登板回数が多くなるということかもしれません。
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セイバーメトリクスのtRAとは?まとめ
セ・リーグ 球団別tRA(投手評価)
ヤクルト 3.67
阪神 3.81
DeNA 3.86
中日 4.04
広島 4.13
読売 4.63https://t.co/kWmdwG0V1G pic.twitter.com/UWYBR1Z1bN— DELTAGRAPHS (@Deltagraphs) 2017年4月15日
今まで知らなかった野球の評価基準を知ったあなたは、きっと、野球の見方が変わるでしょう。
tRAについてお分かり頂けたでしょうか?
tRAについて、もう一度、まとめます。
- tRAは、守備の影響を排除した失点率です。
- 防御率よりも公平に評価することができます。
また、2018年のtRAのランキングを見てきました。
あなたが応援しているピッチャーやいいピッチングをしていると感じるピッチャーのランキングはどうでしたか?